■ 助動詞「ない・ぬ(ん)」
(1) 意味
打ち消し(否定) … ある動作に対してそうではないと言う。
(例) 秘密を話さない。
(例) 泣かぬつもりだ。
(2) 活用
ない :形容詞型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 |
なかろ |
なかっ なく |
ない | ない | なけれ | ○ |
ぬ(ん):特殊型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 |
○ | ず | ぬ(ん) | ぬ(ん) | ね | ○ |
(3) 接続
「ない」「ぬ(ん)」は、ともに動詞(および動詞型活用の助動詞)の未然形に付く。
(例) 読まない / 読まぬ(ん)
(例) 待たせない / 待たせぬ(ん)
「ぬ(ん)」は、「ます」の未然形「ませ」にも付く。
(例) 行きませぬ(ん)
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助動詞「ない・ぬ(ん)」の意味・活用・接続を見ていきましょう。
「ない」と「ぬ(ん)」は、意味と接続のしかたは同じですが、活用のしかたに大きな違いがあります。
次の例文を見てください。
誰にも 秘密を 話さない。
「話さない」は、動詞「話す」に助動詞「ない」が付いた形であり、「話す」という動作に対してそうではない、そうしないという意味を表しています。
このように、ある動作などに対してそうではないと言うことを打ち消しといいます(否定ともいいます)。「ない」は、打ち消しを表す助動詞です。
助動詞の「ない」と紛らわしい単語に形容詞の「ない」があります。
形容詞(補助形容詞)の「ない」も、否定の意味を表します。
・気温が あまり 高くない。
したがって、ある文中の「ない」が助動詞と形容詞のどちらであるかの見分け方が問題となります。
それについては、「「ない」の識別」のページで解説します。
*
次の例文も見てみましょう。
もう 泣かぬ つもりだ。
一睡も せず、夜が 明ける。
宿題を やらねば ならない。
「泣かぬ」の「ぬ」は、動詞「泣く」に助動詞の「ぬ」が付いた形です。
「せず」の「ず」や、「やらねば」の「ね」も、それぞれ助動詞「ぬ」が活用した形です。
「ぬ(ん)」も、「ない」と同じように、打ち消し(否定)を表す助動詞です。
「ない・ぬ(ん)」がどのように活用するのかを見ていきましょう。
(1) 「ない」の活用
まずは、「ない」の活用からです。次の例を見てください。
【知らない】
→知らなかろう
→知らなかった
→知らなくなる
→知らない。
→知らないとき
→知らなければ
この例の赤字の部分だけを抜き出して活用表の形にまとめると、次のようになります。
【表】「ない」の活用表
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 |
ない | なかろ |
なかっ な く |
ない | ない | なけれ | ○ |
続くことば | ウ |
タ ナル |
(言い切る) |
トキ | バ |
★スマートフォンの方は、横にスクロールさせてください。
この活用のしかたは形容詞と同じです。
つまり、「ない」は、形容詞型の活用をする助動詞です。ただし、形容詞とはちがって、語幹と活用語尾の区別がありません。
形容詞の活用のしかたを覚えておけば、「ない」の活用表を丸暗記する必要はありません。「ない」は形容詞型とだけ覚えておきましょう。
(形容詞の活用については、「形容詞(2)活用」のページを参照してください。)
(2) 「ぬ(ん)」の活用
次に、「ぬ(ん)」の活用です。例を見てみましょう。
【泣かぬ(ん)】
→泣かず、
→泣かぬ(ん)。
→泣かぬ(ん)とき
→泣かねば
この例の赤字の部分だけを抜き出して「ぬ(ん)」の活用表をつくると、次のようになります。
【表】「ぬ(ん)」の活用表
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 |
ぬ(ん) | ○ | ず | ぬ(ん) | ぬ(ん) | ね | ○ |
続くことば |
(中止法) |
(言い切る) |
トキ | バ |
★スマートフォンの方は、横にスクロールさせてください。
終止形と連体形の「ぬ」のあとに付いている「(ん)」は、「ん」に置きかえることができるという意味です。
このような活用のしかたは、動詞、形容詞、形容動詞のいずれの活用のしかたとも似ていません。
このように、「ぬ(ん)」は、特殊な活用をする助動詞です(特殊型)。
「ぬ(ん)」のような特殊型の活用については、その活用表を覚えるしかありません。
「ない・ぬ(ん)」という助動詞は、どのような語のあとに続くのでしょうか。
まずは、次の例で考えてみましょう。
読ま ない / 読ま ぬ(ん)
信じ ない / 信じ ぬ(ん)
食べ ない / 食べ ぬ(ん)
来 ない / 来 ぬ(ん)
し ない / せ ぬ(ん)
この例の赤字部分は、すべて動詞の未然形です。
つまり、「ない」と「ぬ(ん)」はいずれも動詞の未然形に付くということがわかります。
上の例のように、動詞の活用の種類にかかわらず、すべての動詞の未然形に付きます。
動詞「ある」の未然形は「あら」ですが、仮にこれに助動詞「ない」が付くとしたら、「あらない」という形になります。
しかし、「あらない」という言い方はしません。
つまり、「ない」は、動詞「ある」の未然形には例外的に付きません。
(「あらぬ」という言い方であれば、することができます。)
*
もう一つの例を見てみましょう。
待た せ ない/待た せ ぬ(ん)
来 させ ない/来 させ ぬ(ん)
買わ れ ない/買わ れ ぬ(ん)
見 られ ない/見 られ ぬ(ん)
行き たがら ない/行き たがら ぬ(ん)
行き ませ ぬ(ん)
この例の赤字部分は、すべて助動詞の未然形です。
「せ」「させ」「れ」「られ」「たがら」はそれぞれ「せる」「させる」「れる」「られる」「たがる」の未然形であって、これらは動詞型の活用をする助動詞です。
このように、「ない」「ぬ(ん)」は、動詞の未然形に付くだけでなく、動詞型活用の助動詞の未然形にも付きます。
また、「行きませぬ(ん)」のように、「ぬ(ん)」だけは、「ます」の未然形「ませ」にも付きます。
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次の各文の( )に合うように、助動詞「ない」を適当に活用させて答えなさい。
(1) それは最初から存在し( )た。
(2) 考え事をして眠れ( )なる。
(3) 働か( )ば、収入がない。
(4) 君が来( )ので、ずっと待っていた。
【考え方】
カッコの直後の語に注目して、それに当てはまる「ない」の活用形を考えましょう。
(1)は、「た」が付く形なので、連用形の「なかっ」が入ります。
(2)は、「なる」が付く形なので、連用形の「なく」が入ります。
形容詞型の活用をする語は、連用形が二つあることに注意してください。
(3)は、「ば」が付く形なので、仮定形の「なけれ」が入ります。
(4)は、「ので」が付く形なので、連体形の「ない」が入ります。
「ので」は、活用語の連体形に付く助詞です。
【答】
(1) なかっ
(2) なく
(3) なけれ
(4) ない
*
次の各文の( )に合うように、助動詞「ぬ(ん)」を適当に活用させて答えなさい。
(1) 仕事を終わらせ( )ばならない。
(2) 眠くて勉強ができませ( )。
(3) かなわ( )恋心を抱いてしまった。
(4) 部屋から一歩も出( )、読書にふける。
【考え方】
「ぬ(ん)」は特殊な活用をするので、その活用のしかたをぜひ覚えておきましょう。
(1)は、「ば」が付くので、仮定形「ね」が入ります。
(2)は、そこで言い切るので、終止形「ぬ(ん)」が入ります。
(3)は、体言(恋心)が付くので、連体形「ぬ(ん)」が入ります。
(4)は、そこで文を中止する形なので、連用形「ず」が入ります。
「ぬ(ん)」の連用形「ず」は、中止法のほか、助詞「に・とも」などが付く形でも用いられます。
【答】
(1) ね
(2) ぬ(ん)
(3) ぬ(ん)
(4) ず
**
次の各文の中から、下線部の「ない」が助動詞であるものを選び、番号で答えなさい。
① 野菜が食べられない。
② カエルは、ほ乳類ではない。
③ このコートを着ると、寒くない。
④ お弁当を半分も残すのはもったいない。
【考え方】
「ない」という語には、助動詞の「ない」のほかに、形容詞(補助形容詞)や形容詞の一部の「ない」もあるので、それらのいずれであるかの見分けが問題になります。
「ない」の見分けについてくわしくは、「「ない」の識別」のページで解説しますが、簡単にコツを言うと、
・「ない」を「ぬ(ん)」に置きかえることができるとき、その「ない」は助動詞
・「ない」の直前に「は」「も」などがあるか、または、それらを挿入することができるとき、その「ない」は形容詞(補助形容詞)
と、なります。
①の「ない」は、「ぬ(ん)」に置きかえて「食べられぬ(ん)」としても文の意味が変わらないので、助動詞です。
②の「ない」は、その直前に助詞「は」があるので、形容詞です。③も「ない」の直前に「は」を挿入することができるので(「寒くはない」)、形容詞です。
④の「もったいない」は、「ない」を「ぬ(ん)」に置きかえることも、直前に「は」などを挿入することもできません。実は、「もったいない」で一語の形容詞です。
【答】
①